幻想の選択肢に手を伸ばす(選ぶ権利も選ばれる可能性も、平等にまた、幻想である)

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 殺してやる、と暴れ回る破壊衝動と、それに任せて振り下ろす凶器を、この小さな掌で止めようとしたところで引き裂かれて仕舞いなだけなのだ。
 嘗ての自らなど当に死んだのだと、初めて引いた引鉄の先にいたのは彼だけではなかった。あの銃弾で真に額を打ち抜かれたのは、
 ×××××という一人の少女。

「……っ!」
 跳ね起きて最初に感じたのは不快に滲む汗の濡れた感覚、二番目は引き摺り込まれそうな程の閉塞感。
 そして、三番目に、右腕の鈍痛。
「………」
 既に今更すぎるその痛みが脳の中央までもを侵すようで、ずきずきと痛む頭を左手で押さえた。その頬を伝う液体が顎を伝って首筋から、汗混じりに胸元にまで入り込んでそこで止まる。頬を浸すそれを覆い隠すように身体を折ると、立てた膝に顔を埋めた。深く深くと、意識的に繰り返される呼吸に、背中が上下するのが自分でもわかる。
「……は、っ……」
 長い長い時間をかけて整った呼吸に、少しずつ、意識が沈んでいく。心地良い闇に身を委ねて、またあの悪夢へ、幾度となく繰り返されるそこへと堕ちていく。
 そのぎりぎりで留まれたならと何度願ったことだったろう。この眠りに落ちるぎりぎりの、微睡に揺れる一時以上の安息を自分は未だ知らない。何も考えなくてよくて、何も見なくてよくて、――全てを、忘れられる。
 このまま時間が止まってしまえばいい。それが叶わぬのなら、少しずつ忍び寄ってくる睡魔を振り払ってしまいたいと思う。けれどこの安息にしがみ付くことに全力を注いでいる自分には、外敵から身を守るための力を割くことすら出来ないのだ。

 刃を向けた先、笑う彼にはとっておきを与えてやりたく思う。
 自らを心躍らせ、愉しませてくれるものには心から、最大級の贈り物を。その形が幾らか歪であろうとも、私はこの際構わない。
 受け取って貰えなかったそれがこちらに牙を向いたのならば、それはそれで、一興と。私はそれを、拒否したりはしない。

 刃を向けぬ先、笑う彼にはとっておきを与えてやりたく思う。
 自らを案じ、慰みを与えてくれるものには心から、最上級の贈り物を。細心の注意の元に、精一杯の選別を行った上で。
 受け取って貰えなかったそれが無為に消えゆき流れ去るのならば、それはそれで、一興と。私はそれを、引き留めはしない。

 私は自らの落日を前に二つの影を見る。
 彼らは遠くを見ている。遠く、遠くを見て、そう、私には届かぬ、果てなき行く先を。
 未練を残すのはこの際自分一人で十分であると、恐らく私は、自らの身を、

×××××へのお題:とっておきの×××/(時間なんて、止まればいいのに)/落日に、ならんだふたり
診断メーカーより


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