今回も注意書きが多いぞ……。
・性描写・性表現・性転換・キャラ崩壊・キャラ捏造注意。
・今のネロさんとフィアロウさんの状況があまりにも美味しすぎたばかりにさかなが暴走したパラレルです。
・パラレルです。
・パラレルったらパラレルです。
・ネロさんは生まれから女の子な女体化です。
・もうこの時点でパラレルです。
・まあわりと女の子なのは身体だけなんですけどね。
・つまりパラレルです。
・有り難いことにそれぞれの背後さんからは許可を頂いています。
・本当にありがとうございます。
・パラレルです。
それでもよろしければ続きから。
なるべく音を立てないように注意しながら、フィアロウは後ろ手にリビングの扉を閉めた。足音を殺してベッドへと近づく。
特にこれと言った理由はなかった。ただ、夜に目が覚めて。変に目が冴えてしまっていたから、なんとなく。
そう、なんとなくだった。なんとなく気になってしまった。なんとなく、心配になってしまった。
だから、ベッドに横たわったネロが静かに眠っているのを見て、妙に安心させられた。
もしかしたら、彼女の事が心配だったのではなく、自分が不安だっただけだったのかもしれない。
自らの基盤となる記憶すら揺らいでいた中で、彼女に縋りたくなっただけだったのかもしれない。
今となっては、その答えも分からない。
「……何してんだ」
薄闇に見える顔はあまり健やかとは言えない表情だったが、眠れてはいるようだった
。
フィアロウは一通りその寝顔を眺めてから、呆れたようにひとりごつ。明日も朝早い、三人分の朝食を作らねばならないし。こんなところで無為に時間を消費しているわけにもいかないのだ。
それでも妙な名残惜しさのようなものを感じながら、ネロに背中を向けようとした。
「……ッ、ァ、うあ……ッ!」
「ネロ!?」
それが叶わなかったのは、不意に耳に飛び込んできた押し殺された呻き声のせいだった。
慌ててネロを見降ろす。先程とは打って変わって苦しげな顔、何かを拒否するかのように小刻みに振られる首。薄く開かれた唇からは悲鳴に近い叫びが漏れる。
「あ……く、ぅあ、ああッ……ァ……!」
あまりに悲痛なそれ、魘される様子に、考える前に手を伸ばしていた。
「ネロっ!」
「―――ッ!」
衝動に任せ両肩を掴んでから、その作りの細さに気付いて言葉を失う。
それは相手も同じだったようで、急に加えられた強い力に目を大きく見開いた。掌の中の肩が驚きに竦み上がり、そうしたのは自分だという事実にフィアロウの罪悪感を煽った。
二つの青い視線が、行き場を無くした末に交錯した。
「……っ、あ……」
何か言わなければ、と急かされるように開いた口から言葉が紡がれることはなかった。何も言うことが出来ないまま、呆然としたようなネロをただ、見返す。
言い淀むフィアロウを凝視していたネロは、やがてゆっくりとその表情を緩めていった。肩を掴んでいる――既に力を失って、掴んでいると言うよりは置かれたと表現すべきか――掌に、自らの掌を添えた。両手でフィアロウの掌を包み込み、気が抜けたような笑みを見せた。
「……よかっ、た……いた、ちゃんと、ここに……」
どこか危うげに紡がれる心底救われたような声だとか、今まで見たことがないような無防備な笑みだとかに、フィアロウは不意を打たれて立ち尽くす。
悄然と彷徨う心の中に、その名前はあまりにも容易に入り込んだ。
「――オズ」
呼ぶ声は酷く穏やかで安堵に満ちたそれだったが、その実フィアロウの心を抉り抜き、強引に抉じ開ける鉤爪でもあった。
目の前で横たわるネロの姿が歪む。既に暗さには慣れてきているはずなのに、視界は暗転せんばかりに不確かで――思わずよろめき、ベッドに両手をつく。
傾いだ身体の、俯けた顔のすぐ前に、ネロの顔があった。
「……オ、ズ」
「――っ」
再び、名を呼ばれる。
知らない名前、覚えがあろうはずのない名前――なのに何故か、耳の奥深く、意識の根底に揺さぶりをかけてくる、その名を。
早鐘を打つ心臓の裏で、フィアロウは落ち着きなく震えている自分を自覚せずにはいられなかった。震える身体に、ネロが手を伸ばす。確かめるように触れた指先は、いとおしむように頬をなぞる指先は、フィアロウの震えを静めることは出来なかった。
むしろ、直に触れられた皮膚越しに、くらくらと身を侵していく毒が広がっていくようで。
「行、くな……ッ、悪ィ、……でも……頼む、から……」
いてくれ、と。
掠れ掠れの声が妙に艶めいた響きを帯びて耳までもが侵食される。
頬を辿って首へと流れたネロの細い指に縋るような力がこもる。その感触に、その熱さに、フィアロウの肌が粟立った。
指にこめられた力は決して強いものではなく、弱々しいとすら言えるものだったのに――完全に捕われてしまって、動けない。
視覚も聴覚も触覚も、すべてに苛まれて身動ぎ一つ許されない。
「オズ」
「――ぅ、あ」
「オズ、なァ、オズ……ッ」
三度では済まなかった。
凍り付いた全身の中で唯一、心臓ばかりが反抗を示すかのように熱を持つ。呼ばれる名が、呼ぶ声が、その度勢いばかり凄まじく脈動を打つ心臓を握り込み、撫で上げる。そのまま心臓を握り潰されてしまいそうな焦燥に支配される。
それは既に恐怖以外の何物でもなかった。自分以外の、自分の知らない何かが、自分の中から呼び起こされるような錯覚、自らの根底を切り崩されることに対する恐怖。
精神的にぎりぎりまで追い詰められたフィアロウは、繰り返し名を呼ぶその声が救いを求めたものであることに気付くことすら出来ずに。
幾度となく呼ばれるその名が彼を更に追い込んで行く悪循環から抜け出す術も見出すことも出来ずに。
「オ、――」
力無く開閉される薄い唇を、唇で塞いだ。
「――ッ」
衝動任せの行動だった。
口を塞ぐなら、名を呼ぶ声を遮るなら、他にいくらでも手段はあった筈だった。なのにわざわざそのような手段を選んだ理由を、知る者はどこにも存在しない。
自らを突き動かした衝動の正体も、自らの行動の意味も理解出来ぬまま。千々に乱れた思考の中でフィアロウは、
熱を孕んで潤んだ青い瞳が、口接を受け入れるかのように伏せられるのを至近距離で見せつけられた。
「……っ」
その、瞬間に。
彼女は既に心を壊してしまっている事実だとか、そんな彼女にこのような形で手を出してしまうのはどう考えてもフェアではないことだとか。そもそも自分はその彼女を受け止め守るために連れ帰ってきた筈だとか、自分自身も既に正常な判断が出来ようもないほどに消耗してしまっていることだとか。
そういう色々が一つ残らず、頭の中から消え失せた。
代わりに残ったものは、自分でも認められない、認めたくない程の――強烈な、劣情。
喉が鳴る音が、やけに大きく響いた気がした。
「……ン、ふァ……っ、んぅ」
触れるだけ、重ねられただけのキスから、深く、互いを貪り合うそれへと。
辿々しく差し込まれたフィアロウの舌にネロも応える。口腔を侵す異物を受け入れると同時に、投げ出されていたもう片方の腕をフィアロウの首に回した。彼の身体を、自らへと引き寄せる。
「――ふ、……っは、ァ……」
二人の唇が離れても、ネロの手はフィアロウの首へと回されたままだった。縋り付く弱さから、受け止める強さへと。首に触れる十指の動きの一つ一つに、妙な疼きを覚える。
ネロの顔が近すぎて、近すぎるが故にぼやけて見えた。不確かなものを確かめるように這わせた指でシャツのボタンを一つ一つ外し、露わになった柔らかさに掌を滑り込ませた。
「……ひ、あッ」
指先に触れる温かさによってもたらされる、確かな安堵とぞくぞくと背中を駆け上がる甘い背徳。抑え切れず漏らされた声は本人の意図に関わらずフィアロウを煽り、誘った。
誘われるがままに、膨らみを握り込む指に力を込める。
「ッ、ん……ぅ」
与えられる刺激ひとつひとつに敏感に反応するネロの伏し目がちの瞳の色は曇ったそれだったが、拒絶の色は窺えなかった。時折揺れる長い睫毛が彼女の顔に影を落としていて、妙な妖しさのようなものを醸し出していた。
ひとを捕えて離さないその魅力に、抗う気力など起きようはずもない。
「ふ、ぅあ! やッ……ん、んん!」
「……っ!」
双乳の先端を彩る赤い蕾を指先で挟み抓り上げると、覆い被さった下の身体が大きく跳ねた。壊れ物のようにも感じられるその身体が一つ動くたびに何か恐ろしくて手を止める。
止まらない。
「……あ」
ネロの白い肌に這わせた掌は小刻みに震えていた。自分の情けなさに舌打ちしたいような気分になり、落ち着けと心の中で自らを叱咤した。
真に落ち着いていたのならば、このような行為などするはずもないのに。
「――オ、ズ?」
「っ、ネロ、――!」
呼ばれた名前に引き寄せる腕、その口を塞ぐ考えなど起きる前にフィアロウの首筋に濡れた熱さが触れた。
指とは比べ物にならない強烈な感触が、粘ついた熱が、皮膚を通じて体内へと浸食していくような錯覚に囚われる。
「ネロ、やめ――ッふ」
「ん……む……ぅ、ン」
首元で立てられる水音が酷く厭らしく、耳を閉ざしたい欲求に駆られた。けれど身体を侵す熱がそれを許さない。背中を駆け上がる背徳がそれを許さない。
許されなくて、逃れたくて、這わせた掌で肌を辿る。豊満な胸元から下へ下へと掌を落としてゆく。しっとりと馴染む肌の滑らかさが指に心地よくて、味わうように何度もその曲線をなぞった。
「ん、は……ァ、あッ――ふ、や」
それに呼応して高まる吐息の温度が唾液で濡れたフィアロウの首を擽ると、背筋を侵す背徳が、悪寒にも似たその感覚が身体の中で蠢く。
呼応が呼応を、触発が触発を呼ぶ。
「や、ぅ――んッ!?」
フィアロウはネロの腕を振り払うと、布団を押し退けて彼女に馬乗りになった。竦む身体の下で、二人分の体重を受けてベッドのスプリングが軋む。
身を強張らせたネロがフィアロウを見上げる。乱されて肌蹴た胸元、濡れた唇。潤んで揺れる瞳の奥に覗くものは、
驚愕と困惑と恐慌と混乱と、――確かな期待。
「………っ」
咽喉が鳴る。薄く色づいた肌、目下の艶姿は目に毒という形容がこの上なく相応しい。くらくらと、誘うような、脳を侵すような。視界に焼き付き回り始めた毒が、フィアロウを支配する背徳の、悪寒の正体を彼に突き付けた。
即ち、欲情。
膨れ上がった昂ぶりの存在感を、最早無視することなどできようはずもなかった。
「……オ――っ、ひァ!?」
名を紡ぎかけたネロの声が、途中で高い嬌声へと変わる。
腹部の危うい程の薄さ故に、ズボンの中へと掌を滑り込ませるのは恐ろしく容易だった。指先で探った下着は湿りを帯びていて、ズボンごと掴んで一気に引きずり下ろす。羞恥故にか閉じられた太腿も殆ど抵抗の意味を為さなかった。
「や、ぁふ……う、くあ……ぁ……ッ!」
殆ど触れられていないにも関わらず既に濡れ濡った媚唇はフィアロウの指を呆気なく呑み込んだ。中で動かす度にネロの身体が跳ね、奥からは蜜が溢れて掌を汚す。
耐えるように反らされた震える咽喉が白く、無防備に晒される急所は酷く美しかった。その美しささえも彼を急かし立てる。
「……ネロ」
「っ……?」
だからせめてと、壊れ物にするように優しく、耳元へと囁いて。
「! ひ、う――あ、あああぁッ!?」
欲望に任せて彼女の身体を掴み、勢いに任せて自らを捩じ込んだ。
「っ、く……!」
「あ、うあ、ぁ……やッ――ひ、ぃあっ!」
押し入った膣内の温かさと心地よさに、包み込まれるような至福感が煽られるような切迫感が同時に湧き上がる。見降ろした下でネロの細い身体が小刻みに震えている。
しかし内壁を抉られる度漏れる声が示すものは間違いなく痛みではなく、艶を帯びたその声音はフィアロウの獣性に火を点けた。奥底に眠っていた、抗えない本能を駆り立てる。
その前に於いては、ネロを身体に走る震えすらも嗜虐心をそそるものにしか為り得なかった。
「ん、うっく、あ……ん、ふぁ……ァ、あ!」
突き上げられて揺れる身体は痛々しいほどに無力なものに映り、それを自らが意のままにしているという事実が胸に迫る。
付随して沸き起こってきた感情は、紛れもない満足感。人を一人、服従させたことで満たされた征服欲に端を発するそれはフィアロウの心に強く焼き付いた。
確かな歪みを、彼の心に残した。
「ひあ、やぁっ……! あ、ふ……ぅ、――っひ!」
その歪みも、強すぎる情欲に塗り潰されて見えなくなる。
「っひゃ、……ぁ、オ、ズ……!」
ネロと目が合った。
与えられる快楽に脈打つ桜色に色づいた身体、何かを求めるかのように伸ばされた掌。震える指先を押さえこむように握り締め、震える痩身を引き寄せて抱き込む。
抱き締めて改めて、その脆さを思い知らされるような、細い身体だった。
「ッ、く、ネロ……ッ」
腕の中の身体がその重さで沈み込む。繋がりを深く突き上げられ擦り上げられ、ネロの身体は弓なりに大きく反らされた。
「んッ――ふ、やっァ、ああああぁぁ!」
その動作が逃れるためのそれに思えて、フィアロウはネロをきつく抱き締めていた。
同時に、果てる。ネロの中へ自らの欲望を注ぎ込む。
「……あ、あぁ……ぁ……ッ!」
強張った背中が、欲望を受け止めた身体が、最後に一瞬だけ震えた。
意識を手放してフィアロウに身を預けるネロの、繋がったままだらりと弛緩した身体は、それはそれで酷く煽情的であった。
一瞬前までのフィアロウに対してならば、その獣欲を充分に煽ることができたような。
けれど。
「……ッ、あ」
我に返ったフィアロウの顔色は蒼白だった。
胸に寄り掛かる身体を抱き締めることなど出来ない。つい先しがた自らが蹂躙したその身体に誰が触れられよう。
かといって振り払うことも出来ない。壊れてしまいそうなそれを突き放すことなど出来はしない。
ただ、呆然と佇むことしか。
「……ネロ」
名を呼んでも、意識を失ってしまった彼女は答えを返してはくれなかった。返らぬ答えに落胆すると同時に、――深く、安堵する。答えが返ってきたのなら、何か言わねばならないから。何も言えることなど残っていないから。
「ネロ、……ネロ、ネロ……ッ!」
気付いた時には幾度となく彼女を呼んでいた。触れることも突き放すこともできない彼女の名を呼ぶことで、何かが埋まるかのように。救いを求めるかのように。縋るかのように。
真に救われなければならないのは彼女なのに。
「ネロ、っ……!」
――自分は、何をした?
守るために、支えるために、受け止めるために連れ帰ってきた彼女に。
庇護すべき対象に、背負うべき対象に、安息を与えるべき存在に。
自分が為したことは、何だ?
「……あ、っ……」
触れられない。触れられない、かといって離れられない。この温もりに縋って、手放せない。
もう、どこにも行けない。
「―――――ッ!」
誰にも知られてはならない悲鳴は、響くことすら許されずに掻き消えた。
(2010/03/31)