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「……ラ、……サラ!」
 遠くから必死に自分を呼ぶ声が聞こえて、サラはゆっくりと目を開いた。同時に後ろに回した腕に強烈な違和感、頬に触れている冷たい感覚に気付く。
 開いた目に見えたのは、何度も自分を呼び続ける、大好きなひとの蒼白な顔。
「……ユー、グ」
「サラ!」
 思ったより上手く声が出なくて、絞り出すように名前を呼んだ。それに安堵する彼の姿、
 その彼もまた、サラから少し離れたところで後ろ手に縛られて床に転がされていた。
「すみません、サラ。こんなことになってしまって――どこか、痛みますか? 具合は? 息苦しくはありませんか?」
 サラと同様に転がされたままの自身には頓着せず、自分を案ずる言葉を募らせるユーグ。
 そのあまりに必死な様子に、サラは場違いにおかしくなって――そして、悲しくなった。
「だいじょうぶ。苦しいとか、あんまりないよ」
 本当は縛られた手首や足首だとか、床に擦れる肩だとかがたまらなく痛かったけれど、それらすべてを押し殺してサラはユーグに笑いかけた。どうにか彼を安心させたかった。
 そして何より、彼が味わっている苦しみに比べたら、こんなものはなんでもないのだろうと思えたから。
「……あまり無理をしないでくださいね。身体、弱いんですから」
 眉根を寄せてそう言ったユーグは、その視線をサラから自分たちのいる部屋全体に移した。
 狭く、あまり清潔ではない殺風景な部屋。窓はなく、光の弱い白熱電球がちかちかと明滅を繰り返している。
 それに照らされるユーグの顔は、ひどく張り詰めたものに見えた。
「……ユーグ」
「大丈夫です」
 そんなユーグが心配で、思わず漏らした声は、彼には別の意味に取られてしまったようだった。無理に作った笑顔がこちらを向く。そんな顔をさせたいわけではないのに。
「あなたのことは、オレが守りますから」
 そんな言葉が欲しいわけではないのに。
 思わず表情を曇らせたサラの耳が、部屋の外から響く荒々しい足音を捕えた。曇った表情がそのまま凍りつき、マリアットの顔が一気に厳しいものに変わった。
 ドアが乱暴に開けられ、顔を出したのはカジュアルな格好をした二人の男だった。床に横たわる二人を見降ろしてにやりと笑う。
「二人揃ってお目覚めか?」
 軽く投げかけられた言葉。ユーグは敵愾心を隠さずに男らを睨みつけた。
 なるべく低く、唸るようにして反駁する。
「同じ部屋に放り込んでいただけたので、一緒に起きられましたよ。……何の用ですか」
「いやな。あの研究者の奴隷っつーもんを一目見てみたくてな」
 虚勢を含んだその声に、男の片方――ひどく背の高い大男だ――が、あまりにもあっけらかんと返した。その言葉に思わず身体を強張らせるサラを、もう一人の赤毛の男が覗き込む。
「こっちがあいつの娘か? 思ってたのと全然ちげぇな」
 乱暴な口ぶりでそう言った男は、横たわるサラの頬に手を触れて顔を上げさせた。軽薄な色の瞳が、サラの顔をまじまじと観察していた。
 観察。そう、観察というに相応しい様子だった。値踏みするような視線が自分を見回す、その不快感が背筋を駆け上がる。
 赤毛の男はやがてくつくつと笑うと、もう一人の大男に声をかけた。そしてひとつの提案をする。
 おぞましくも惨たらしい提案を。
「結構カワイー顔してんじゃねぇか、気に入った。ヤっちまおうぜ」
 その言葉は狭い部屋にあまりにも軽々しく響いた。
「え――」
「――何をッ!!」
 言葉を失ったサラの代わりに悲鳴のような叫びを上げたのはユーグだ。赤毛の男がうるさそうにユーグを見て、しかしすぐに興味を失ったようにサラにその視線を戻した。
「いいだろ? 好き勝手していいって話なんだぜ、食わなきゃ損じゃねぇか」
「……そうだな」
 大男がサラを見降ろす、その視線が酷く恐ろしくサラは呼吸を忘れた。身動きひとつ取れずに視線を彷徨わせて――こちらを向く、ユーグと目が合った。
 その瞳は、サラが今まで一度も見たことがないような色をしていた。
「確かに上物って感じだな。有り難く頂くか」
「いっ……」
 男の大きな掌が不意にサラの肩を掴んだ。万力のようなその力にサラは震えることもできずに、ただ、ユーグを見た。救いを求めるように。助けを求めるように。
 否、この瞬間、サラは確かにユーグに救済を求めていたのだ。つい先ほどまで守られることを歯痒く思っていたはずの自分が、それでも同じことを繰り返していた。実際に自分の身に降りかかる恐怖を目の前にして、何もかもを忘れて。

 助けなど求めなければよかったと、救いなどどこにもなかったのだと、思い知らされることになることすら分からずに。

「は、離してっ!」
「……やめろ! その娘に手を出すな、身体が弱いってことはアンタらも知って――あぐっ!」
 ユーグの叫びを途切れさせたのは、赤毛男の蹴りだった。腹部を踏み躙りながら、楽しむように声をかける。
「んなこた知ったこっちゃねえよ」
「う、ぐ……あっ、何、を」
「何って、ナニだろ」
 事もなげに言った大男が、抵抗できないサラの服に手をかける。一気に引っ張ろうとしたその手を止めたのは、
「――ヤるんだったらこっちにしろ!」
 吐き出すように絞り出された、ユーグの悲痛な叫び声。
 ユーグを踏み躙っていた赤毛の男が訝しげに彼を見降ろす。呆れたような顔をして、問いのような侮蔑の言葉を投げかける。
「残念だけどな、男色のケはねぇぞ? てめぇで何を楽しめっつーんだよ」
「……そっちのケがないんだったら、尚更丁度いい、ですよ」
「あん?」
 怪訝な顔をした赤毛の男、大男もサラの服を掴んだままで二人の様子を眺めていた。
 覚悟を決めたような、腹を括ったような顔をして、ユーグは赤毛の男を見上げた。

「――女ですよ」

 僅かに震えるその声は、サラとっては青天の霹靂としか言いようがなく、
 彼女の心を、この上なく揺さぶり震わせた。
「……う、嘘」
 思わず漏らした声はあまりにも小さすぎて、誰にも届かず掻き消えた。呆然としたよサラの前で、けれどユーグは男を睨み続ける。
 きつく男を見上げる瞳に、迷いなどどこにも見られなかった。
「確認してみてくださいよ。脱がすのでもなんでも構いません、彼女には手を出さないでください。――ご奉仕くらいなら、出来ますよ?」
 窺うように放たれた懇願と挑発が入り混じった言葉に、赤毛の男が面白そうな顔をした。床に転がるユーグの上に跨り、その顎をがっちりと掴んで顔を覗き込む。
「……デマカセ言ってんじゃねぇよな?」
「だから、確認してくださいと言っているんです」
 怯えすら見せずに、挑みかけるようにユーグが言う。その自信満々な様子が気に障ったのか、赤毛の男はユーグの服に手をかけ――その黒衣を、一気に引き千切る。
「―――っ……」
 その様子に息を詰めたのはむしろサラの方で、彼らの様子から目を離せない彼女の前で、ユーグの胸を包んでいたさらしが解かれていく。
 解かれたさらしが床に落ちた。その代わりに露わになったものは、
「お、ホントに女じゃねぇか」
 男の手がユーグの胸の膨らみを無造作に掴み弄んだ。確かに存在した柔らかなそれをぞんざいに揉まれて、ユーグの眉が僅かに寄った。不快を示すその表情、それも凍りついた視線をそちらに向けるサラと目が合った瞬間に塗り替えられる。
 サラを安堵させるための、穏やかな笑顔へと。
「―――!」
 その笑顔は無理をしたものでは全くなくて、
 その事実がサラの心を抉り抜いた。
「っつーことは、そっちのガキより楽しめんじゃねぇ? どーよ?」
「そーだなぁ」
 大男がまじまじとユーグの胸を、顔を、身体を眺めまわす。無遠慮に女としての、女の体としての価値を算定しながら、自分が押さえ込んでいるサラに目を向けた。
「お前の方はどう思うよ?」
「ひっ……」
 自分に意識が向いた、ただそれだけのことが恐ろしくて仕方ない。このままではユーグがどうなるか、それは分かり切っているというのに、漏れるのは情けない悲鳴ばかりだ。
 目の前で身体を撫でまわされるのは初恋の人で、その人が実は女性で、それで自分のためにその身を差し出そうとしている。
 現実感など欠片もない、頭が真っ白になって何も考えられない。否。
 考えることを、受け入れることを、頭が拒否している。
「あくまでそっちにご執心か?」
「……まあ、別にロリ趣味はねーかな」
 呟いた大男に軽く手を離されて、サラの身体が床に倒れる。軽く身体を打って悲鳴が漏れた。
「きゃっ……」
「サラ! ――ぁっ」
「そっちの心配してる場合じゃねぇだろ」
 赤毛の男がユーグを抱え込み、殊更に身体を弄くり回した。そうしながら服を引き裂き、白い肌を露わにしてゆく。
 ――そして、悪夢が始まった。



 ぬちゃぬちゃと、水気を帯びた淫靡な音が響く。
「ん……ふ、うっ……」
 腕の拘束は解かれぬままで頭を掴まれ、目の前の大男のモノを頬張らされるユーグ。
 その後ろから赤毛の男が手を伸ばし、執拗にその身体をまさぐり、片方の手で胸を揉みしだく。もう片手は引き裂いた服から覗く肌を辿り、ゆるゆると厭らしい手つきで撫で上げる。
「おら、もっとしっかり咥えろ」
「んむぅっ……っ! っんん、ん!」
 強引に頭を引きよせられ、口の中の肉棒を押しこまれる。苦しげに顰められる顔を見て大男が笑った。
「ほら、ご奉仕くらいは出来るんだろ? もっと頑張れよ」
「むぐ、う……、ふっ、う、んん――――ッ!?」
 きっと大男を睨め上げたユーグの瞳が一気に見開かれる。背後の赤毛男が胸を強く掴みあげ先端に爪を立てて弄び、強すぎる刺激に細い身体がびくびくと打ち震えた。
 きつく眉を寄せて耐えるユーグの耳を甘噛みし、舌先で耳朶を嬲る。ついでとばかりに耳に息を吹き込み、赤毛の男は悪戯っぽく囁いた。
「てめぇが頑張らなかったら、あの娘はどーなんだろうな?」
「……!」
 それだけの脅しで、ユーグの瞳が凍りつく。

 サラの目の前で繰り広げられるその光景は、
 ひどく陰惨なその光景は、
 二人の男に蹂躙されるユーグは、
 サラの目にはどこかちぐはぐで、奇妙なモノに映った。
 それは現実を受け入れられないサラのせめてもの抵抗であり、決壊しそうな少女の心を守る最後の防波堤だったのかもしれない。

「お、上手くなってきたな」
「んっ……っふ、んむ……」
 頬の内側で口内の陰茎を擦りつけ、喉の奥で吸い込むようにして刺激を加える。気まぐれに鈴口を舌で責めるなどして変化をつけて男を愉しませようとする、その表情はあまりにも必死で、一途ですらあった。
 大男の方はユーグの奉仕を愉しんでいるようで、必死さを滲ませるその表情を眺めて笑っていた。
 その様子を見て、赤毛の男の方がつまらなさそうに表情を曇らせた。
「!? ん、ふぁ」
 男は下着ごとユーグのパンツを引き剥がし、今まで全く触れられていなかったそこに手を這わせた。びくりと震えるユーグはしかし、口淫を止めることが出来ずに奉仕を続ける。
 やがて遠慮を知らない男の指先がそこを探り、小さな音を響かせた。
 口淫の音に紛れて消えてしまいそうな、小さな水音を。
「おい、お前――濡れてるぞ?」
「――っ」
 それを殊更に宣告する男の声は、相手をいたぶる愉悦に満ちていた。
「――はっは! こりゃァ傑作だ、こいつ無理矢理しゃぶらされて感じてやがる!」
「そりゃまた、とんだ淫乱というか……」
「んんぅッ! んむ、ん――ッ!」
「うっせぇな」
 赤毛の男の指が、秘裂を強引に割り入る。まだ僅かにしか濡れていなかったそこへの強引な行動、その痛みにユーグが震えるが――男はそれに頓着せず、無理矢理に肉壺を押し広げた。
「ホラ、そっちばっか気にしてる場合じゃないぞ――っと!」
「ん、んぐっ……んううう!?」
 大男の掌がユーグの後頭部を掴んで引き寄せ、男根で喉奥を突きあげる。えづきそうになったユーグに、しかしそのような暇は与えられなかった。
 ユーグの口腔内で男の欲望が吐き出される。逃げ場のないそれは喉の奥へとダイレクトに流れ込み、そのまま食道を伝い穢した。あまりにも奥で射精されたために、ユーグの口からは一滴の白濁も流れ出すことはなかった。
 口の中を支配していた熱い欲望の塊から解放され、背中を丸めて咳き込むユーグ。そのユーグを、
「っ、げほ、かふっ――ふ、ひ、やあっ!?」
「あーやっぱり声はしゃぶってない方がそそる声出すよなー。俺こっちの声のが好きだ」
「悪かったな」
「ホント、そっちばっか愉しんでくれちゃってよぉ」
 赤毛の男が引き寄せ、ユーグの細くしなやかな身体を仰向けに引き倒す。彼女の足首の拘束を鬱陶しげに切り捨てて両足を開かせると、十分に解されていないそこに自らの怒張を当てた。
 ユーグの顔が予感と恐怖に引き攣る。その様子すらを愉しむ男の顔は、嗜虐的な色に染まっていた。
「今度はこっちが愉しんでも――いいよなッ!?」
「いっ――あああああぁぁぁっ!」
 一気に媚唇へと押し入られる痛みに、ユーグの苦悶の声が響く。縛られたままの手を握り締めて痛みに耐えるユーグを、赤毛の男はお構いなしに揺さぶり、突き上げる。
「あ、うあっ! いあ、あ、いたっ、ああうっ!」
「うっせぇな、ついさっきまでキモチヨク濡らしてたんだからそんなわめくなっつーの」
 呆れたような男の言葉も、今のユーグには届かない。激痛に視線を彷徨わせるユーグのうつろな瞳の焦点を合わせたのは、
「……そこの娘が心配するぞ」
 計らずも的を射た、大男の言葉だった。
「っ……」
 ぎくりと表情を強張らせたサラを向いたユーグの顔から、その瞬間だけは張り詰めたものが失われたように見える。
 けれどそれは見せかけだと、取り繕ったものなのだと、今ここで分からないほどサラは愚かではなかった。
 そして、こんなにも愚かでありたかったと願ったことも、かつてなかった。
「っ、んっ、――、んうっ」
 唇を噛み締めて悲鳴を堪えるその姿は禁欲的で、逆に背徳的な性感を煽った。
 律動の度ぱたぱたと頬に散る髪の、その一筋一筋すら如何わしい。
「ん……、ふ、んぁっ」
 やがてその声の音が、僅かに色を変えていく。
「あっ……ん、はぁっ、や、らぅっ……ひ、ひぁ! あぁっ」
 艶めいた嬌声へと、少しずつ色を変えていく。
「流石の淫乱だな。生ハメなんて久しぶりだろ?」
「やぁ! んぁっ、ひゃう! あっ……あぁ! ふぁ――」
 赤毛の男に突かれ、揺さぶられるユーグの身体を大男が抱え上げた。突き上げられる格好になり、その身体が前のめりに震える。
 赤毛の男が不満そうに零した。
「おい、邪魔すんなよ」
「いいだろ、少し待ってろ」
「ふっ……あ、ぁ……?」
 急に止まった抽送に荒い息を静めようとするユーグ。
 大男の手がユーグの太腿を辿り、その指が探った先は――、
「ひあっ!? ちょっ、そこ、や、ぁんっ!」
「うるっせえな。二人でヤるんだから使わない方がもったいないだろ」
 違う孔を探られて思わず身を捩ったユーグを突き上げながら、呆れたように赤毛の男が言う。
「うっわー。悪趣味」
「今更何言ってんだ。だからちょっと待ってろって、揺らすな」
 今まで以上に慣れない感覚にユーグの身体が強張る。男は暫くユーグのそこを指で弄び、やがて手を止めて剛直を押し当てる。
 甘さに融けていたユーグの声は、ひきつったものに変っていた。
「ちょっ……待っ、嫌」
「あっちにある穴を使えって言うんならそれでいいけど」
「――! !? うあっ、くぅ――ああああぁっ!」
 二本目の肉杭を身体に打ち込まれて、ユーグの身体が逃げ場を求めてもがく。けれど前後を男らに挟まれた状態で逃げ場などありようはずもなく、ただ細い身体を打ち震えさせるのみである。
 その身体を、男達が容赦なく突き上げる。
「ひぃあっ! や、そんっ、あうぅ! はあ、ぁ! あ、ふぅ……んっ、んん!」
 前から後ろから、時に交互に時に同時に、絶え間なく揺さぶられ続けて、ユーグは痛みと快楽に喘いだ。
 大男の手がその胸を揉み上げ、赤毛の男の指が肉芽を転がす。複数の性感を同時に責められ、ユーグは乱れに乱れた。

 細く白い身体が二人の男に犯される光景は、おぞましくも淫靡で――そして、美しかった。
(――お人形さん、みたい)
 それは図らずも、少女が初めて彼女と会ったときと同じ――

「ひあぁっ、あっ――ぁうっ! いやぁ! んんっ……」
「どうだ? 思ったよりいいだろ?」
「んー。まぁそーかもな」
 がくがくと震える身体を好きに蹂躙しながら、男達は勝手な会話を交わす。同時に、そのストロークは物凄い勢いで激しくなっていった。
 その会話も耳に入らず、何かを拒否するように首を振るユーグにも限界が迫っていた。
「あ、ひゃうっ、うぅん! んぃ、ああぁ……あっ、くぅ! ぅ、んぁ」
 苦しげに寄せられた眉、蕩けたような瞳、柔肌を転がり落ちる珠の汗。
 その全てがひどく淫靡で、この上なくそそられる。
「ん……そろそろ、出すぞ? 大丈夫か? ……ま、大丈夫じゃなくても出すけどな」
「――俺もだ」
「やらっ、だめ――あうぁっ! ひぅっ……ぅ、んん! いぁっ!」
 拒否の言葉さえもろくに紡げはしない。行きつく暇もない抽送に揺さぶられて、溢れるのは甘く、鼻にかかった喘ぎばかりだ。
 そして――
「――ひぁっ!? ん、ぁぁぁああっ!?」
 二つの孔に欲望を注ぎこまれ、ユーグの背中が限界まで反らされる。深く貫かれた身体はそれらをもろに受け止め、僅かに漏れ出た白濁が淫らに噴き出し珠肌を汚す。
「ぁっ、あぁ……あ、はぁっ、あぅ」
 限界を超えてがくりと力なくくずおれる身体、それを受け止めたのは――
「――オイオイ、まだこんなんでへばってられねーだろ?」
「気を失うにはまだ早いんだよ」
 折れることすら許さない、酷薄な男達の腕だった。



「んじゃ、一旦オヤスミー。またよろしくな!」
「今度は他の奴も来ると思っとけ」
 軽い言葉と共に、二人の男が扉を閉める。
 錠の落ちる音が響いて、閉じ込められていたのは、
「………っ」
 拘束も衣服もすべて剥ぎ取られ、蹂躙しつくされたユーグと、
 拘束されたままの、サラの姿だった。
「……ゆ……ユーグ……っ」
 蚊の鳴くような声でサラが零す。あまりにも小さなその声は、虚ろな瞳をしたユーグには届かないかと思われた。
 しかし、
「――サ、ラ?」
 白濁に塗れて横たわるユーグは、朦朧とした意識の中で、その小さな声すらも拾い上げた。
 何度も貫かれ、欲望を叩きつけられた身体を引きずり起こし、這うようにしてサラに顔を向ける。
 その顔に張り付いていたのは、紛れもない安堵のそれだ。
「………っ!」
 その事実が、幾度となく焼きつけられるその事実が、サラの言葉を奪う。
「すみ、ません、サラ……っ」
 繰り返し嬌声を絞り出した喉が掠れ、思うように声が出ない。
 その不自由さも厭わずに、ユーグは同じ言葉を繰り返した。
「――守り、ますから」
 同じ、言葉を。
 凍りつくサラの前で、とても、とてつもなく残酷な言葉を。
「あなたのことは、絶対に――守ります、から」
 そして、笑った。

「あなたが穢されることがなくて――よかった」

 その笑みも、その言葉も、その意思も、何一つ変わらずに貫き通されたものだった。
 こんな風に蹂躙されて、犯されて、それは全てサラを庇った故のもので。
 サラに意識が向かないように、サラが下卑た男達の手にかかることのないようにと――ただそれだけに心を砕いたユーグが、自身を差し出してぼろぼろになれてなお、歪められることのない意志。
 それはもはや、
「――ばかっ……」
 他ならぬサラの心を、ずたずたに切り裂いていたことを、ユーグは知ることはないのだろう。
 ――わたしが、と。
 わたしがもっと強ければ。身体的だけでない、精神的に。サラにすら隠し通していた自らの性を暴露し、自分の身を捧げようとするユーグのその行動を遮り、自分が犯されるという事実に耐えることができるくらいに強ければ。
 あんな男達ごときに怯えることがないくらいに強ければ。
 ――ユーグの強さに、頼りきりにならなくて済むくらいに強ければ。
「ばかだっ……わたし――」
 頬を伝う涙が忌々しい。
 自分には泣く権利など存在しないのに。
 ユーグは少しも涙を流しはしなかったというのに。
「……泣かない、で、ください……サラ」
 そこで初めて、彼は――彼女は、悲しげな顔をするのだ。
 ああ、自分はまたこの人を悲しませている。自分の弱さで、強いこの人を悲しませてしまっている。
「泣かないで……絶対、あなたを……守、り……」
 希望を探すには暗すぎるその部屋で、その声はひどく空しく響いた。

(2010/08/02)


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