狂おしい
くらいつくようなせいじゃく
るいじひんをしっている
おおいかくされるべき
しゅうそくするれんぼ
いわはほんのすこし
by as far as I know
彼は何も言わなかった。
赫怒し我を失った私を顧みることさえしなかった。その沈黙が私をさらに逆上させた。
制止する声は無視する。押さえ込む腕を振り解く。彼の細い身体を叩きつける。降り注ぐのは紅。あの子の目と同じ紅。
情熱的な色に抱かれて静謐を抱え込んだ彼は、それでもなお沈黙を維持した。
<食らいつくような静寂>
獣のように、鳥のように、風のように森を駆ける。夜の中を一直線に。空に浮かぶ満月は、今ばかりは味方となってくれそうだ。
木々の吼える音が耳を刺す。こちらは敵。霊山の堅い守りは、その和を乱す者を易々と通してくれはしない。それらは明確な意志を以て、侵入者に害を為す。
額が痛んだ。右目を血が伝う。もとより視力は失っていた、問題はない。他、軽傷が幾つか。この程度で済んでいるのは奇跡と言うべきだ。何の干渉もないとしたら。
思い出したことがあった。差し伸べられた手。彼のものではない、ごつごつとした大きな掌。成熟した大人のそれ。抱き上げてくれた温もり。教えてくれた色々。ぬばたまの黒。執着の理由。
意識させられた、ぽっかりと抜け落ちたもの。おずおずと差し出される手。自分のものと比べても、より小さな掌。幼い子供のそれ。抱きついてきた温もり。教えたはずの色々。青雲の白。執着の理由。
決定的な、何かが足りない。それが何かは分からないけれど。
<類似品を知っている>
最期にひとめ逢えたらよかった。
それは叶わぬ願いだけれど、駄々を捏ねることくらいは許される気がした。
だからこれは、八つ当たりだ。
最期の約束でもあるこれは、嫌がらせ以外のなにものでない。
<覆い隠されるべき>
心配してるんだから、と言う彼女の、袖を引く腕を取る。引き寄せた身体のなんとか細いことか。床へ組み伏せ顔を寄せる。溢れる言葉を押し込める。
いつまで母のつもりでいるの、と。
押し込めた筈の言葉は溢れて零れた。彼女へと降り注ぐ。見開かれた瞳に見惚れた。ああもう、最期に自分はどうしてこう。
<集束する恋慕>
彼が笑っているのは珍しいことではない。それが心からのものでなくとも、彼はよく笑っていた。
だから最初は気付かなかった。言葉を交わしてにこにこ笑って、彼を見送ってからやっと気付けた。
<違和はほんの少し>
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