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 夜は嫌いだった。
 傾きゆく空の太陽を見るだけで憂鬱になるし、伸びていく影などは最早恐怖の対象でしかなかった。
 少しずつ、少しずつ。確かに刻まれていく時が止まって欲しいと、縋るように銃把を握る。

 勿論そのような願いが叶う筈もなく、誰に対しても平等に、ただ、夜はやってくる。
 闇の向こうから伸びる掌、その先に彼らがやってくる。
 その時が来る。



 薄く差し込む月明かり、噎せ返るような吐息の集積。
 滑り落ちる汗が肌を跳ね落ちそれとは関係なしに繋がれたまま引き寄せられる。
 おさない躰に深く楔が、嘲笑うように中を穿つ。

「……っぃ」

 いたい、と。上がりかけた悲鳴を塞がれ歯を立てないように慌てて口を開ける。
 込み上げる生臭さは既に慣れたもので、その事実を悲しむ心の余裕すらももう残されてはいない。
 これ以上酷くされたくないと、そればかりを願って、慣らされた身体も捻じ伏せられた心もひたすらにただ従順だ。

 夜が過ぎ去るのを待って、待って待って待って待って待ち続ける。昇り来る太陽だけが唯一の救いだと信じ続ける。

 その先に在る血塗れの戦場を、いのちが消え行く安息を、ひたすら待ち望み白濁を呑む。


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