3←
→5
目次

■エピローグ

【GM】
さて花冠さん、あなたはフィンヴェナハの巣穴で目覚めました。
隣には心配そうに見つめるドラゴンの姿は……無いかな?どこかに獲物を取りに行ってるかな?
【フィン】
いえ、いますともっ
薬草とか纏めたりしてます
【花冠】
あ、うん、そこは外さないと思ったよね(真顔)

【花冠】
反射的に起き上がろうとするも、全身の傷に身が軋む。
「……ッ」
息を殺して。
【フィン】
「目覚めたか?」
傍らでは、フィンはその巨体に似合わぬ細かい爪捌きで薬草を束ね、これを薬湯に浸していた
【花冠】
「……お陰様で、と言うべきか」
【フィン】
「あれほどの傷が、一晩で治れば、更に関心するところだったのだがな」
【花冠】
「無茶を言うな」
瞼を伏せて。
「脆弱な人間だぞ」
【フィン】
「そうであったか? どれ、薬草を替えてやる ジッとしていろ」
薬湯から薬草を引き出し、これを花冠に貼られていたものと取り替えていく
【花冠】
「貴様も言っていたろう。変わりのない味だと」
されるがままにしつつ。
【フィン】
「ふん、貴様に切り刻まれ、すぐに吐き出してしまったからな 味わう余裕も無い」
【花冠】
「味わうつもりだったのか……」
【フィン】
「興味があった それだけのことだ」
「どうだ、傷の膿んだ様子はあるか? あれば他の処置をせねばならぬ」
首を伸ばし、覗き込む
【花冠】
そうか、と静かな声で返してから
幾らか身動ぎで感触を確かめて。
「……特段。雨も降っていなかったからな」
【フィン】
「そうか、ならば じきに傷も癒え、動けるようになるだろう」
【花冠】
「………」腕の傷の様子など見たりして。

【花冠】
「貴様は、俺をどうする?」
【フィン】
「さてな」
「本来ならば、貴様が動けるようになり次第、我が子をいただく予定であったが」
【花冠】
その話もあったなとぼんやり考えてる。
【フィン】
「貴様には、傷を治されてしまったからな」
【花冠】
「……自分の為したことの、始末をつけただけだ」
【フィン】
「さりとて、貴様の中に流れる血に、欲を沸かぬわけでもない
だが、貴様を縛り付けるには、我の誇りが良しとせぬのだ」
「どうだ、貴様は 我と一緒になるは 嫌か?」
【花冠】
「……はて」
唐突に示された選択肢に考え込む素振りを見せて。
【フィン】
「…貴様には、我が姿が不満か? 無理も無い、人の身とは異なる、余りにも巨大なものだからな」
「所詮、人の身であるという、そういうことだろう?」
【花冠】
「そういった色恋沙汰には、どうにも縁がなくてな」
「……どうにもぴんと来るものがない」
朴念仁とはこのことかと。
【フィン】
「縁などと、今更なことを言うな」
「それに、これは色恋などと生ぬるいものではない 同胞を増やし、子々孫々を反映させる技なのだ」
【花冠】
「そういった義務的なものでいいのか?」
ちろと視線を向ける。
【フィン】
「義務ではない これこそが生命の源であろう」
【花冠】
「……俺には良く分からん」
生命というものとは切り離されてしまったから。
【フィン】
「なれば、分からせてやろう」
【花冠】
やや面白がるような視線を向けている。
【フィン】
「貴様が耐え抜く傷の痛みこそが躍動であり、貴様が守り戯れた村の人間こそが安寧だ 全て、生命の同胞だ」
「それをお前が育てるのだ」

【花冠】
「……俺は」
痛みに耐えつつ上体を起こす。
「あの村を守れるのなら、それ以上に大切なものはないよ」
「今のところはな」
【フィン】
「……やはり、貴様とは気の長い付き合いをせねば ならぬようだな 竜である、我にすら そう思わせる」
【花冠】
「はは」
「貴様にとってはひと瞬きであろう」
【フィン】
「待つ時間というのは、いかなる存在にとっても、重いものだ」
【花冠】
「そういうものか」
いまいち分からん、と首を傾いだ。
【フィン】
「で、あれば この姿のままでは 貴様を看て取るにも不便であるな」
「貴様には 幾度譲歩させられるか、まったく分からん」
そう言いながらも、少し楽しげに
竜は数歩身を退き、洞窟の奥の陰へと身を隠す
【花冠】
「?」
その背中を不思議そうに見送って。
【フィン】
物陰から出てくるのは、艶やかな長い髪を纏い、全身に切り傷を付けた 生まれたままの人の姿をした 誰か

舞台裏
【花冠】
誰か
【フィン】
私だ
【花冠】
お前だったのか
【フィン】
いいえ、フィンさんです
【花冠】
そっか……

【花冠】
「……竜とは、変化の術も持ちあわせているものだったのか」
【フィン】
「一時的な変化の法だ、本質は変わらせぬ 我は苦手なのだがな だが、お前にとっては一時の時も悠久に感じるであろう
【花冠】
「そうか」
「妙な負担を、背負わせてしまったな」
【フィン】
「まったくだ 実に頼りない、不安を感じる姿だ」
【花冠】
「幻滅したか?」
【フィン】
「貴様と出会ってから思わぬことばかり分かってきた この姿も、じきに慣れるかも知れぬ」
「幻滅するか否かは、それから決めよう  ……竜であることを、捨てるつもりは無いがな」
【花冠】
「……そうか」
ひとつため息を吐いて、
「では、人間としての基本的な振る舞いを教えてやる必要があるか」
【フィン】
「なんだ? 溜め息を付くことか?」
【花冠】
近くに自分の外套があるかな、襤褸みたいになったそれを掴んでフィンに投げつける
「人間は服を着るものだ。初めに覚えておけ、龍族よ」
【フィン】
花冠の外套を受け取り、これをジッと眺めたのち、着込む
「やはり面倒なものだな 人の姿は」
【花冠】
「なに、じきに慣れるだろう」
瞼を伏せて、「俺もそうだった」
【フィン】
「そうか では我も、貴様に教わるとしよう」
外套をひらひらと、はためかせながら近くに座る
【花冠】
座り込んだその姿を隣に見て
「……気長に頼む。ひとにものを教えるのは、あまり経験がないんだ」
【フィン】
「ふん」
「この我が 貴様の言うなりになるのだ もっと自信を持ってもらわなくてはな」
【花冠】
「努力はしよう」

【フィン】
「さて、だいぶ話し込んでしまったな そろそろ横になっておくが良い」
【花冠】
促されたなら少し考え込んで
一度ばかり手招き。
【フィン】
招かれるまま、身体を近づけます
「どうした? 何かまだ用か?」
【花冠】
薬のにおいがする掌を伸ばしてその頬に添えて、
軽く引き寄せたなら額に口吻。
「世話をかけた。……おやすみ」
それだけ。
掌を離してすぐに横たわる。
【フィン】
状況が飲み込めず、されるがまま 眼をぱちくり
「……なんだ、今のは」
【花冠】
「礼だが」
【フィン】
「まあ、良い 寝ておけ 詳しくは、また貴様が目覚めてから聞くとしよう」
【花冠】
「ん」
【フィン】
「おやすみだ、花冠」
【花冠】
「おやすみ、フィンヴェナハ」

【GM】
では、これにてシノビガミシナリオ『傷痕』閉幕とします。
お疲れ様でした!
【花冠】
お疲れ様でした!
【フィン】
お疲れ様でしたー!
3←
→5
目次