57.あかいゆめ

 永久の夢にたゆたうような心地でいる。朱くあかい夢だ。忘れることのないようにと。心に楔を穿つように。
 現に立ち返れど大して差はない。世界はあかいまま、囁きは絶えぬまま。
 来るべき日を待ち続ける。

 余白の日々に紅を差し入れたのがあの龍だった。延べられた爪はこの身を薄守がごと引き裂き斬り絞り、血を、内腑をぶち撒けた。或いは情を、或いは渇望をも。
 疼いていた傷痕をも。
 理由はなんだったろうか。導かれた。光を忘れた。目が眩んだ。さよならをした。共に在り続けた。手を離せずにいた。
 欲を抱き続けていた。
 焦がれ続けていた。

 失えずにいた。



 溺死している。もしくはしてしまった。あの日に。自らの築いた屍の山の上で。
 おやすみなさい。誰に囁いただろうか。誰が。誰を求めて。あの子供が。
 刃は血に汚れていた。あの子の掌に握られた、大切な、譲り受けた、語っていた、慕っていた、彼の愛する故郷の。辿り着け得なかった。握り潰した。
 過ぎ去った時は戻らない。
 見上げた空は同じ色のままなのに。



 だからこそ。