四日目
自室に戻るといつもまず、スーツを脱ぐことすら忘れてベッドに倒れ込む。
ぎしりとスプリングの軋む音を耳に収めながら、それから決まって、足の痛みのことを思い出す。
「……いてぇな」
義足との接続部に擦れるような疼痛。
溜息をついて服を脱ぎ捨てれば、物々しい金属の塊が存在感を主張していた。
これとの付き合いも何年目になったろうか。その存在に違和感を感じることはとうになくなっていたが、痛みは痛みとして、ただそこに在る。
「――っづ、あ」
ばちり、と。
神経接続を切る際に一瞬だけ走るぞわりとするような感触には未だ慣れない。
昔はこれを嫌って義足を外すことをしなかったが、今となってはもう、義足を付けていることに伴う苦痛の方が上回った。
『いっそ、腹ァ括ってきっちり整備してもらったらどうだい。その分、脚も長いこと持つかもしれないよ』
同じハイドラライダーの、義足の女の言葉が脳裏を過ぎる。
飽き飽きするほどの正論であったが、リーはその言葉に従う気は起きなかった。
というのもそもそもが整備どころで済む問題ではないのだ。自分の体格に合わない義足を間に合わせで付けているせいで過剰な負荷が掛かっている。それがそもそもの原因で、そうなった理由は自分が金をケチって中古品を調達したから、というしょっぱいところに行き着く。とはいえもともと神経接続式の義足などという高級品、自分のような貧乏人には手の届かないもので、しかしそれを諦めてしまったらハイドラライダーとして働くことは難しかった。
しかし逆にハイドラライダーとして働いた莫大な報酬をもってすれば、十分に高性能な義足を得ることも出来るかと思われたが――それよりもリーは、時間が惜しかった。
そして自分に残される時間がそう長くないであろうことも知っていた。
ミリア。
妹の名だ。
何人目かは覚えていないリーの継父の連れ子で、血の繋がらない、しかし唯一の家族だった。
リーが働きに出ている間に一晩の酒代に替えられた妹の行方を、自分は未だ追い続けている。
金はそのために必要だった。
地位も身分も伝手も技術も持ち合わせない自分が売り払われた少女の足跡を追うためには、金を払って専門の者に依頼するしかない。
それも一機関では駄目だ。彼女を失ってから十余年は経っている。金に糸目はつけられない。
リーの左足は不発弾の爆発に巻き込まれて失われた。
戦場跡での話だ。放棄された機体の中にはまだまだ有用なものが残っていて、それを漁って売り捌くのは重要な収入源の一つだった。
自分の気の緩みと不注意から、片足を失ってしまったことは大きな痛手であり一生の不覚だった。
これさえなければ、もっと妹の捜索に金をかけることができた。
普段使っている義足を外して、室内用の安物と交換して一心地つく。こちらは神経接続の機能こそないがリーの体格に合わせて作られていた。
身体が鉛のように重い。随分疲れやすくなってしまった。一服しようと服を手繰り寄せてポケットを探るが、そういえば先ほど切らしてしまったところだった。買って来ればよかったと思いながら投げ捨てる。天井を見上げる。
追い求める面影と、最近よく見る笑顔が不意に重なって、何も考えたくなくて瞼を伏せた。