五日目
笑顔の貌というものは、あんなにも変わらずにいられるものだったろうか。
「あの、その、だ、だいじょう、ぶ……?」
怯えたような声がひどく遠く聞こえた。
何よりもうるさく響いているのは自分の血の巡る拍動で、それに揺らされるたび折檻を受けた身体が痛んだ。起き上がることは愚か顔を上げることすら難しい。何もかもが億劫になるほどにただ意識を痛みばかりが占めて、その中で、彼女の声はあまりにも微かであったのだ。
それでも、耳には妙に沁みた。
「……、ぅ」
「! いきてるのね!」
恐る恐るの指先に身体を触れられ揺すぶられ、いびつに潰れた肺から押し出された空気が喉を通って密かな呻きとして漏れた。
だが彼女にとってはそれで十分だったようだ。明るく跳ねる声が安堵に浮いて、それから遅れて、あ、と何かに気付いたように息を呑んで。
「ど、どうしよう、ひどいけが……」
その声が、
あまりにも心細げに凍りついて、途方に暮れていたから。
『――おにいちゃん、だいじょうぶ? いたいの?』
あの声に、重なったから、
だから、
はやく、
「…………っ」
安心させて、やらなくてはと。
無理矢理に頭を持ち上げる。力を振り絞る。突っ張った腕、さんざに踏み躙られた肩口が悲鳴を上げている。意識がぐらぐらと回って定まらず遠のきかける、のを、気合だけで繋ぎ止める。
面を上げる。腫れた瞼と血が邪魔をして、ぶれてぼやけた世界の中でただひとつ、
その瞳だけが、ひどくクリアに映った。