五日目

 母と呼べなかったその人は、私の手を引いて見知らぬ場所に置き去りにした。
 寒くて怖くて私はただただ一人で泣いて、でも足を止めてくれる人なんて誰も居なくて。
 声も掠れて涙も枯れ果ててそのまま凍えて眠ってしまいそうだったとき、その人は私の名前を呼んでくれた。

「メリス」

 優しい優しい声だった。

 身体が弱くて外に居る筈の無いその人は、息を切らして鼻の頭を真っ赤にさせて、心底安堵した表情を浮かべた。
 それから自分も寒いだろうに、着ていた上着を私にそっと羽織らせて、凍える掌で私の手を取ってくれた。

「――もう大丈夫、僕らの家に帰ろう」

 その言葉と共に枯れ果てたと思っていた涙がまた溢れだして、幼い私はただただその場で泣いた。


 だから私はこの人に救われて。
 この人の為に生きようと思ったのだ。