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ep.ここにある


 カーテンの隙間から射し込む陽の光に目を焼かれて覚醒する。
 まだ見慣れない天井。違う部屋。汚れて乱れたシーツに包まれて、目覚めて尚、意識が重い。
 身体も同様に。微睡みの中そのまま再び沈んでしまいたくなる倦怠感。

 誰もいないから。

 シーツに残された残滓にあたたかさを感じるのは難しい。
 堂々巡って自分のものでしかない温もりに触れて、それで心を慰めるのが精一杯だ。
 我に返れば落胆に包まれるだけ。
 自らの孤独を再確認するだけ。

「……ユハ」

 勿論、返答は、ない。

 腕の力で身体を起こす。纏わり付くシーツを払い除けて、寝台の横、テーブルの上に置かれたリングを手に取る。
 掌の中で転がる、前よりも細くて軽いそれ。名前すら刻まれていないひどく簡素な。

「ユハ」

 ――大切なものは、

「ユハ――」

 指先で口付ける。
 答えはなくとも。
 そこに存在するものを確かに感じて、たまらなく嬉しくなる。

 大切なものはここに在るのだと胸に刻んで、それを楔として生きられるのだ。


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