海は広い
広いので、進んでも進んでもあんまり変わった気がしない
でも変なものが沢山拾えるからいいこと
変な音と声の聞こえる瓶
マリモ
七色に輝く真珠細工 何の形?
むきえび 退魔の力があるらしい 初めて知った
手紙 カレー? の話
沢山拾いすぎてごちゃごちゃしてきた
そろそろ整理をしたほうがよさそう
でもなんだかもったいないな
☆ ★ ☆
海の中で歌を聴いている。
スキルストーンとは便利なもので、クロニカは酸素が必要な生き物で、鰓も持ち合わせていないが、このお陰でこうして長い間水の中に潜っていられる。
クロニカの故郷には湖があり、好んで潜ったりしたものだが、当然ながら海と湖は大きく色が違った。水深が違う。水質も違う。息づくモノたちが、違う。
(湖は藍色だったけど、この海は碧って感じだ)
母なる海、という言葉を本で読んだことがある。
生きとし生けるものの起源は、海にある。そういった意味らしい。
クロニカの故郷には海がなかった。あったのは、湖だけだった。
あの藍色の湖と遺跡。それがクロニカの記憶に残る、故郷の象徴だった。
手を引かれたのを覚えている。
ごめんね、ごめんなさい、繰り返される言葉も覚えている。その理由が分からない。その手を振り解く気にならない理由も。
「解放してあげられると思ったのに。だから呪いをかけたのに」
「解放?」
「血を混ぜることが、存続させることが、そんなに大事? あなたが犠牲になることなんてないのに」
「……待って。話が読めない」
激しい嵐の日だった。
暗い色の空がしきりに唸り、大きな雨粒が身を叩き、時折走る稲光がその頬を一瞬だけ照らす。
濡れた頬。白い頬。
足を止めたそのひとが振り返る。
泣きそうな顔なのか、本当に泣いているのか、区別がつかなかった。
「犠牲になどなっていない。できることを、しているだけで――っ」
ぴりと肌を刺されるような鮮烈な感覚。
電流のように走った、繋がれた手からだ。深い情愛と、それよりなお深い慨嘆。
泣いている、と思った。
目の前のひとは泣いている。
「……ごめんなさい。その通り。間違いない。……でも、今はそれができない」
「でも、呪いが解ければ、元通り」
「解けない」
触れた場所から伝わるものは色濃い感情だけではなかった。
冷え切った皮膚の感触。握り返しても包み込んでも温まることのない。
頑なに強張っていた。
「解けないの。……解かせてはならない」
「それは困る。このままでは、役目が――」
「――役目なんて」
「役目なんて、果たさなくていい!」
雷鳴。悲鳴に似ている。木々の声。雨に打たれて揺れ落ちる葉、風に押し流されてしなる枝。
呼応するように泣き叫んでいる。この森が。この山が。
藍色だった湖は、今はどうなっているだろう。
「自由に、なりなさい。自由になるの。……あなたは」
泣き声だ。握った手に手を重ね、縋るように胸元で泣いている。
言われていることが理解できない。昔、教わったことと、多分違う。
そう在るべきと教えられた中に、そんなことは含まれていない。
「あなたは、私の――」
海の中、泡が浮かぶ。
耳に届く歌は耳慣れたものとは程遠かったが、クロニカの耳には十分心地よかった。