(幕間)交わし得ぬもの


 先んじたのは花冠だった。
 空間を切り裂いたかのような音が、ざくり、響く。
 エンブリオと呼ばれる超常にも、お互い、すっかり慣れたものだと思う。
 何故ならこんなにも自然に身体が動く。

 振り抜いた一閃。
 風を纏った斬撃が相手の太刀に流されて軌道を変える。
 金色の瞳がこちらを見ている。

 見通し見透かし焼き付いた奥底に、知り得た筈の貌のかたち。

「そこだ、花冠!」

 呼び掛けられた”そいつ”が自分であることを意識する。
 大振りに、しかし鋭く突き込まれた一撃も、同じく自分が知り果てた。

 誘い込む。
 ぴりぴりと澄み渡り弾ける凍気が蜃気楼のように視界を歪める。
 夢幻が如、冴え渡る逢魔が辻に似て、心の芯まで醒まし搦め捕るような。

 刃は自分に届かない。
 空に弾かれ、ぐらりと揺られ目標を見失い、接ぎ止められて彷徨揺る。

「なん……!?」

 どうかそれで、

「――殺さんよ。まだ」

 縛り囚えることが叶うなら。



 ――ばきり、何かの砕ける音。
 きらめきに”誰”を垣間見た?



 視界を、膚の下を、這い回るあかい色。
 ぞくりと背中を撫で上げる、寒気のするような追い風の強さ。
 知り得なかった数々のモノ。
 抑え込むため、一人立つため、培って来たそれらの力が、赤く赤く汚染されていく。

 まるで。



 斬撃が、幻惑が、死合が。
 交わされる中に言葉はなかった。
 確かに何事か語られたかもしれない。
 たがそれは花冠には届かず、花冠も何も伝えはしなかったから。
 二人の間に介在し得たものは出来損ないの殺意ばかり。

 まだ、と、それはあなたに告げた言葉。



「――さて」

 そう引導を渡すでもなく。
 突き立てられたのは、終わりへの未知導。



 躊躇いはないと確認した。
 殺意も存在しないことを悟った。
 馬鹿だなあと笑えてしまう。
 届けられなかったのと同じように、届かなかったことを知る。



 罠を張った。



 宛らあの日の死闘と同じく。
 鈍り欠けてしまった、歪つな戦意に悼みを立てて。
 繰り返し螺子巻く夢見の折に、どうかを願って、諦めたように。

 ほら、真にお前の知る業だ。
 あの日と同じように、あのひとおなじように。

 冀う。


「殺してくれるなよ」



 ――嘗ての巨体にしたように、その罠はその身を狩り穫った。



 倒れ臥した僅かの隙も逃さない。
 フィンヴェナハの肩を踏み躙り抑え、抵抗も許さず躊躇も見せず。
 抜き放った小刀を振り下ろす。



 その頬の傷に、血潮が落ちる。







 そうして身体は傾いでいく。
 手甲に赤い色が染みて滲み、服を濡らして広がりゆき、
 いろの違う瞳は、嘲るように、安堵するように、細められて彼女を見た。



 ころされるなと、いったじゃないか。



 穿った喉の痛みを耐えかねたように歪めた表情で、
 ただ、嬉しそうに、そう批難した。
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