41.かぞくを
傾いだ身体が地に落ちる。
簡単なことだった。
苦心したのは殺さない、ただその一点に尽きる。
しぶとく食い下がられれば食い下がられるほどに、腹の奥底に煮え滾るモノがある。
殺意が揺らめく。
自分のものですらない借り物めいたそれに、されどとうに囚われていた。
「……この程度か」
吐き捨てる声に紛らわして、自分の中からも追い払おうとする。
上手くいかない。息を吸う。
吸って、吐く。
意識して行う動作は生命維持のためのそれとは大きく異なっていた。
息の音がする。
それを止めてしまいたい。
ずっとそう思っていた。
屈み込み外套の首元を掴み、引き寄せる。
容易く浮いた身体に苛立つ。
握り締めた掌に血が滲む。
ぼたりと落ちる。
「死人に負けた気持ちはどうだ?」
嘲る。
「……地の底に……、叩き落とされたようだ……」
「そうか。……俺はな、」
「お前の答えを聞いた時に、そのように感じたよ」
ざわりと、腹の奥が騒ぐ。
邪魔をするな。これは俺の怒りだ。
お前のものではない。お前は出てくるな。
この殺意は、
「――失った命? 俺の、……俺の失った命は、家族のものだ」
自分の命などに頓着はしていない。
死ねるのならとうに死んでいる。
何も恐れずに死ぬことができるのなら、なにひとつ後腐れなく、ただ一人で死ぬことができるのならばもうとうに。
求めているものは、取り戻したいのは、家族の命だ。
見込み違いで知った顔で語られて、これほど腹立たしいことがあるものか。
人の奥底に土足で上がり込んでおいて厚かましい。
こんな、こんな風に無神経に、なにひとつ与えられないくせして、それを、
――何を求めていたのかと、最早自分に失望する。
「……ふざけるなよ。代替品など存在しない――ふざけるなよ」
「……違う」
「違わない」
「生まれ、変わらせるのだ……」
「黙れ!」
外套を高く振り上げ、その身を地に叩き落とす。
意識の深くがのたうっている。這いずり回り目を覆い耳を擽り首を絞め上げられる、それを全て錯覚と無視して子どものように喚いている。
子どものようだと喚いている。
目指していたものは、或いは、
生まれ変わりだと? 龍が、……竜風情がふざけたことを言うな! お前はそんなものを理解していないだろう!」
――或いは。
「踏み躙るままに踏み躙り、家族も持たず生きてきたお前が知ったような口を利くんじゃない、俺は、」
膝を折る。
何も聞こえない。見えない。分からない。
ざわりと雑音めいた声が耳に入って、
「喋るな」
受け入れられず遮断する。
「それ以上、見当違いを、ほざくんじゃない。お前の言葉は耳障りだ……」
それは誰に向けた言葉だったろう。
自分でも理解せぬままに迷妄に身を任せ、引きずり込まれるまま、
耽溺する。