47.ひとひら
一枚、ひとひら、言葉が舞う。
『私を望んでくれるなら、それで倖せになれるなら私は身を投げてでも手を差し伸べる。そういうひとでありたいんです』
『自傷はあまり勧めないぞ。それは人間の人間としての愚かさの一面だと思う』
『俺には何だか花冠が死にたがっているように見えるのが心配でならないが』
『折角知り合ったんだ、僕だってアンタが元気な方が嬉しいに決まってるさ』
過ぎた言葉だとは思う。
長い間ろくに他人と話をすることすらなく生きてきたからだとか、与えることも与えられることもなく一人きりでいたからだとか、そういった瑣末の諸々はどうでもいい。
ただ、それらは自分には過ぎた言葉だった。
『おろか、なんじゃなくて、かかんにーちゃんが、やさしい、んじゃねーのかな』
『ただ……あんたのような心持ちの人間を、『強い』というのだと思う』
『お前さんは……優し過ぎるのかもしれんな』
あたたかなもの。
認められ得ること。
やわらかく尊い感情の動き。
そういったものを、嘗ての自分は踏み躙って進んだのではなかったのか。
白々しい。その形容が全く似合う。
今更何を。罵られても仕方がない。
きれいに調和の成り立ったうつくしいものに、触れることの許される指先では、とうになくなっていた筈ではないか。
裏切り。
怨嗟を吐いた、黒い狼。
共に時を過ごした妖たちを歯牙にも欠けず力で潰して、黒く粘ついた汚泥が全身を浸していた。
その時のことを覚えている。
それからこそが自分の生で、
それから全てが始まったのだ。
『花冠、』
届けられるはずのないはずの名を想う。
食い違っている。子どもの姿。笑う妖魔。纏められた長い髪。
真似て学んだ彼らの日々。
跡形もなく刻まれて、誰の心にも残らない。
『殺してやるさ……』
『――確実に殺せるっていう保障はできひんで』
『それでもええんやったら……死ぬ瞬間まで、ちゃんと殺したるわ』
だのに。
自分ばかり、惜しまれて愛しまれて殺されることを選ぶのは、
あまりにも卑怯で滑稽だった。