49.龍と龍
乾ききった空気が頬を叩く。
腹の底を揺るがすような、唸り声に似た風の音が響く。
ここは龍の棲む山だと言う。
花冠の慣れ親しんだ山とは似ても似つかなかった。
自分の暮らした山は草木が青々と生い茂り、清流が穏やかにささめき、踏みしめた足の裏から生命の息吹と躍動が伝わってくる。そういう山だった。
そのような地で育った。
岩山を削り、砕いて転がしたような道のりだった。
当然足場は最悪に近い。それでもそう険しい道とは感じなかったが、同行者のノエルやトムは随分と苦しげに息をあげていた。
あれも、同じく。
風の鳴る轟音が、龍の声を掻き消すか。
その気配をも紛らわすか。
三頭の龍。
率いる人の身の、見下ろす瞳の金色。
――機縁の日。
龍の姿を見上げたその日。
頬を叩く雨、圧するような分厚い気配。
馨しさすら感じさせる程に強く脳裏を揺さぶるほどの。
それが、いつしか消えていた。
戦いの徴の刻む最中に、何故だか、そんなことに気を取られていた。