51.眠り目覚めるもの

 投げ出された掌は血に沈んでいた。
 見下ろしてけものが立ち尽くす。

 耳障りな音は絶え間なく響き。
 血に似た粘液が這い落ちて体躯を呑む。
 汚していく。汚されていく。

 それすらも赤い瞳が眺めていた。

 捩り切られた身体。
 暴走した妖魔の膂力を前に、それはあまりにも脆かった。
 掠めた爪で身を裂かれ。
 容易く崩れて倒れ伏す。



 眺めている。


 なにゆえに、この子どもを連れ去ったか。
 彼と共に暮らしていたのか。
 見守ってきたのか。
 眺めていたのか。
 言葉を交わしたのか。

 なにゆえに。なにゆえに。
 自分は。

 ――『真朱』は。



 ひしゃげた手を伸ばす。
 拾い上げた身体は軽い。今もまさに血と体温が失われつつある。
 もはや力の入らない身体は、持ち上げられたままだらりと傾いた。

 命は既に失われている。

 揺らがぬ事実を悟り、受け止めて、さもなれば。
 ――ああ、自分は、本当に往生際が悪い。



 嘲笑ったのは自分自身を、
 泣き叫ぶは心の深奥。
 縋るように。引き止める腕。心象風景。

 自分ではない、あなたが。



 振り払って頭を垂れる。
 どろどろに崩れた身体で、ぼろぼろに引き裂かれた身体を抱き竦めて、顔を埋める。

 融け合っていく。







 ――そうして”彼”は目を覚ます。



 空は青く遥か高く。
 静まり返った山の中で、横たえられた身体が起き上がる。

 纏った襤褸も肌までも、垂れ流された黒に塗れて、
 あたらしい世界で空を仰いだ。



「――俺は……」



 色の違う双眸は、天を映す。